続・湘南のお地蔵さま『榎地蔵』
中島淳一
金沢シーサイドラインの野島公園で降り、公園へ渡る橋を背にして百五十メートル程行った交差点に石造りの祠があり数体の石のお地蔵さまが祀られる。あの水戸光圀(黄門)公も信仰したという伝説を持つ榎地蔵である。
昔、光圀公がこの地を訪れた時にその従者(助さん、格さん)が榎地蔵の霊験あらたかなることを光圀公に伝えると「そんなにご利益のあるお地蔵さまはいない。村人たちを迷信で惑わせてはならない」とたしなめ、その地蔵尊を海中に投げ捨ててしまった。ところが旅から戻ると水戸の浜辺にその像が打ち上げられ一行を待ち受けていた。驚いた光圀公はその地蔵尊を元あった金沢に運ばせ丁重にお祀りしたという。
数年前までお地蔵さまのすぐ脇に大きな榎の木があり、そのことからこの名前がついたとも思えるが、残念ながら伐採され今はその面影すらない。
光圀公は時代劇の主人公として「勧善懲悪」の「権化」のように称賛されているが、自分の領内では寺社改革を厳しく行い、その約半数近くの寺社を処分したことでも知られる。この榎地蔵の伝説に登場する光圀公の驚くさまは、その改革に疑問を持った人々の気持ちを反映しているのでは、と感じる。