鎌倉殿がもっと楽しくなる!リレーコラム⑫最終回《鎌倉殿》の表示するもの
大石直記(元明治大学 教授)
戦時下の非日常の中、人は平時には考え難いことをする。犯罪行為に等しい暴虐。現時のウクライナ情勢など、人間性に潜む暗部を照射する。アドルノの例の言説以降、表現はどのように営まれたか。この一年お茶の間を賑わした鎌倉軍事政権のドラマ。そこにも絶え間ない非道の痕跡が政権維持の物語の背後に数多仄見える。敗軍の将の首に十寸釘を刺し、これを掲げて市中を練り歩く梟首の如き。勲功の標は反復され儀礼となり様式化される。坂口安吾は、討ち取られた首を玩具として遊戯化する女の姿を歪んだ美への偏愛として形象化し、引き攣るような乾いた笑いを誘った。また、森鷗外『阿部一族』をテレビドラマ化した深作欣二は、殺戮シーンを写実せず深い闇の中に浮かび上がる群像を象徴化した。
さて、戦乱の物語にあって三谷幸喜固有の巧まざる諧謔は、果たして何を射抜いたか。