続・湘南のお地蔵さま『板橋のお地蔵さん』
中島淳一
箱根登山電車箱根板橋駅で下車。駅前の国道一号線北側の旧東海道を左へ進むと板橋地蔵尊に着く。正式には金龍山宗福院といい本寺は近くの名刹香林寺である。現在の地蔵堂は江戸時代中期建立の黄檗(おうばく)宗寺院の建物を移築したお堂で、県指定重要文化財である。
寺伝では弘法大師が北国へ向かう途中、箱根大地獄谷で一夜を過ごされた時、火山の冠ヶ岳から地獄の苦しみを思わせる恐ろしい叫びが毎夜聞こえ村人が困っていることを聞き、自らの手で地蔵菩薩を刻んで回向したところ、恐ろしい叫びも止み平穏な日々が戻ったという。この霊験あらたかな地蔵尊を室町時代末期に香林寺の住職がこの板橋の地に遷座し、大地蔵坐像(写真)の胎内に秘仏本尊として納めた。よって腹籠(はらごもり)のお地蔵さまと呼ばれ、大祭の時に参拝者とのご縁を現在もつなげている。
西湘地区ではこの寺を「板橋のお地蔵さん」と呼び、毎年正月と八月の二十三、二十四日の大祭には多くの参拝者が訪れる。この時故人の供養のため堂内に灯りを灯す「ロウソク上げ」が行われるが、故人の命日と「おろー」の声が堂内に一日中響き渡り珍しい参拝風景である。
西湘地区の知人から「板橋のお地蔵さん」紹介してと度々言われ、地域に根付いた信仰心の深さに心打たれた。