よりぬき沿線新聞 続・湘南のお地蔵さま

続・湘南のお地蔵さま『近前来地蔵』

 中島淳一

今回はわが故郷のお地蔵さまを紹介する。根岸線新杉田駅で降り国道16号線を渡るとすぐに臨済宗建長寺派の東漸寺がある。創建は鎌倉時代後期で、開基は鎌倉幕府の要職も勤めた北条宗長と伝わる。創建以来、関東屈指の寺格を誇る禅刹である。境内には禅宗様仏殿として有名な釈迦堂があり、本尊釈迦如来や鎌倉時代初期の薬師如来、国重文の梵鐘などが祀られている。

境内には私の幼い頃の遊び場だった大きな弁天池があり、その右奥に高い石塔の上に坐す近前来地蔵が祀られる。この聞き慣れない「近前来」という言葉は「もっとそばに寄れ」という意味を持ち、禅の教えの中にも登場する。しかし私の幼い頃の記憶にはその姿はない。

今は海から遠く離れその雰囲気すらないが、昭和三十年代の埋め立て工事開始までは、寺を出て百メートル程で沢山の漁船が海に浮かぶ美しい海岸だった。この地蔵尊も以前は海岸近くに祀られ、その塔身には「海中安全」の文字も見られる。

今回善良な人々とのご縁で数十年振りに故郷の仏たち、そしてお地蔵さまと出会えたが、無沙汰ばかりの私を優しく受け入れ、そして「もっとそばに寄りなさい」と声をかけてくれたような気がした。

-よりぬき沿線新聞, 続・湘南のお地蔵さま