私の江ノ電ばなし 第八話 昔々、納涼電車があったとき
野口雅章 写真集『江ノ電305』著者
今年は梅雨明けが異常に早く、六月からまるで夏本番の様相。海沿いを走る江ノ電は、夏場がよく似合う。もっとも、最近は六月の紫陽花電車の一面の方が、一般的には強くなっているかもしれない。海水浴での混雑が、以前ほどでないこともあろう。
昔の江ノ電で、夏といえば、これはもう納涼電車ということになるだろう。昭和初期に走らせた車体の窓ガラス無しの車両のことだ。クーラーなど全く考えられない時代。徹底的に風通しをよくした電車が、納涼電車というわけだ。
当初は、開業当初に使われたような小型の車両だった。その後、一〇〇形(今も残る一〇八号タンコロなどと同形)と、同じくらいの大きさの車両になった。
当時の写真を見ると、まるでビーチパラソルのような屋根の作りで、ビスコやグリコの宣伝が付いている。イラストも描かれ、見るからに楽しげだ。思わず、乗ってみたくなる。
もっとも、夕立ちなどがあると、車内に雨が吹き込み、びしょびしょになったとも聞く。これが唯一の欠点だったろうか。当初使われた小型の車両は、一般的構造に改造され、西武鉄道に譲られていった。これも、今では信じられない話だ。
時は移り、一九九二年、三〇一 + 三五一電車が、納涼電車を模した塗装にされた。夏らしい水色基調の塗色だったが、その姿のまま廃車されたのは、残念だった気もする。