よりぬき沿線新聞 続・湘南のお地蔵さま

続・湘南のお地蔵さま『狼さま地蔵』

 中島淳一

横浜線相原駅東口近くの信号と橋を渡り、すぐ先を右折すると踏切があり、道なりに進むとお地蔵さまが祀られる。狼さま地蔵である。地蔵尊は二体あり合掌する一体は新しく、もう一体は風雨のためか像容も定かでないが江戸時代のものと思われる。

日本にも生息していた狼はすでに絶滅したといわれるが、山岳信仰の神社では「大口真神おおくちまがみ」という神や神の使いとして長く信仰されてきた。今も「火難盗賊除」のお札に狼が描かれ、このお札を持って帰ることが狼を自宅に借りてきて守ってもらうことを意味する。

狼さま地蔵の名前もこの信仰に由来する。昔この辺りは山近い畑で農作物を狙う鹿や猪が多かった。そこで農民たちは害獣が恐れる狼を「友」として崇め神社などから借り受け畑を守った。しかしその事情を知らない隣村の猟師が鉄砲で撃ち殺してしまった。これを憐れに思った農民たちは供養のためこのお地蔵さまを祀ったという。

取材中に近隣の方々が「お参りするといい事があるよ」と声を掛けてくださり、地域で愛され信仰されていることを感じた。私が帰ろうとした時、小さな鐘の音が何処からか響いた。あれはお地蔵さまの声だったのだろうか。

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