続・湘南のお地蔵さま『大口川丈地蔵』
中島淳一
御殿場線山北駅からバスにのり三菱ガス化学前で下車。近くの新大口橋を渡り左折すると福沢神社が鎮座し、その先に馬頭観音を中心とした石造物群があり、大口川丈(おおくちかわたけ)地蔵が祀られる。
石造りの安定感のある坐像で蓮台にのり胸前で合掌する。お顔には微笑みを浮かべ大きな赤い涎掛けが良く似合う。このお地蔵さまは、昔暴れ川と呼ばれたすぐ前を流れる酒匂川の治水工事の歴史と関係の深い像である。
富士山の宝永噴火により酒匂川も川床が浅くなり大洪水を繰り返した。その復旧のため江戸時代に治水工事を命じられた川崎の名主田中丘隅(きゅうぐ)は五年をかけて大規模な土手の修復などをし、その後も後継者が努力を重ねて現在の豊穣な足柄平野となった。
丘隅は中国の治水の神である「文命」を祀る文命宮をつくり、また酒匂川流域の氾濫が集中した六か所に地蔵尊を祀り治水を祈願した。この大口川丈地蔵もそのひとつである。
近くの新大口橋の上から見下ろすと、水の勢いを弱めるために利用された千貫岩が見えるが、その大きさには圧倒される。いつ訪れるかわからない水害への備えの大切さを、お地蔵さまはそのどっしりとしたお姿で、後世の人々に伝えている。