私の江ノ電ばなし 第四話 特徴があった306号
野口雅章 写真集『江ノ電305』著者
私が小学生の頃、江ノ電は古い車両の天下だった。その中でも、特に興味深い存在が三〇六+三五六という電車だ。
この電車は、もともと都電(旧王子電車)の車体を譲り受けたもの。江ノ電に来た当初は、一両ずつで走っていたのを、1956(昭和31)年、連結車に改造した車両だ。その後、1968(昭和43)年、連接車に再改造されたという異色の経歴を持っている。その時、三〇六+三五六と命名された。
ここで特筆したいのは、その連接化された後の車体スタイルについてなのだ。特徴をあげると、
一、前面窓上に方向幕(行先表示)がある
二、前面窓下の塗装が、金太郎の腹掛けと言われる塗り分け
三、客用扉の幅が広い(他車より20㎝ほど広い)
この車両が連接化された頃の行先表示は、前面窓下に横長で差し込み式で設置されていた。一〇〇形タンコロだけは、昔ながらの縦長(長方形)だった。だから、手動とはいえ、方向幕というのは、当時の江ノ電にとって画期的だったといえよう。
また、写真のような前面窓下の塗り分けも、この車両だけだった。残念ながら方向幕と塗り分けは、1973(昭和48)年頃、乗務員扉を新設した時に廃止されてしまった。そして1991(平成3)年には、この電車自体が廃車された。
終着駅が近づくと、車掌さんが裏フタを開け、行先を手回しで変えていたことが、今も懐かしく思い出される。