続・湘南のお地蔵さま『寺境の車地蔵』
中島淳一
東逗子駅横の踏切を渡り坂道を五分程進むと神武(じんむ)寺表参道の入口がある。石段を登ると程なく道は歴史を感じる山道へと一変する。途中の切通の上から視線を感じ見上げるとお地蔵さまが祀られている。
右手に錫杖(欠失)左手に宝珠を持ち、丸いお顔には微笑を浮かべ蓮台に座る。衣のひだは簡潔だが、その下に隠れる両足の存在を見事に感じさせる。この像は江戸時代の享保十年(一七二五)に神武寺第六十四世体安により建立された。神武寺は天台宗の古刹でその創建は奈良時代の神亀元年(七二四)と伝わり、古来より山岳信仰の道場であった。
今回紹介するお地蔵さまは地元では「車地蔵」と呼ばれるが、その名の由来は定かでない。しかし江戸時代に描かれた「神武寺境内絵図」には車地蔵の名が見られ、その近くに「車松」という松も描かれるので何らかの関係があるのかもしれない。またこの地蔵は、江戸時代に土地の境界争いをしていた隣接する寺との境界の目的としてここに祀られたとも伝わる。
山岳寺院らしく表参道とは名ばかりで、その険しさ、森厳さは参拝者を拒否するかのようである。しかしその途中で車地蔵に会えたことで、先へ進む力をいただいたような気がした。